何れ(いずれ)の候補者にも属さない票とは

 選挙結果の発表内容に「何れの候補者にも属さない票」という項目が含まれていることがあります。
 一見、無効票(白票や落書きなど)と同じようにも見えますが、実は全く異なる分類です。これを理解するにはまず按分票について知る必要がありますので、以下ではまず按分票について、そしてその次に「何れの候補者にも属さない票」について説明します。

 まず、按分票についてです。
 選挙の候補者の中に、苗字や名が同じ候補者が2人以上いることがあります。例えば「田中 A男」「田中 B子」という2名の候補者がいる場合が挙げられます。
 この選挙の投票結果を集計する時に「田中」とだけ書かれた投票用紙がいくつか見つかったとします。さて、この票はどちらの候補の得票になるでしょうか。それともどちらの得票にもならないのでしょうか。
 直観的に「『田中 A男』に半分、『田中 B子』に半分、と等分するのではないか」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。
 ではどうするかですが、まず「田中 A男」「田中 B子」の得票として明確に区別できる票(このような票を基礎票などといいます)を先にカウントします。そして「田中」という、どちらの票なのか判然としない票(「按分票」といいます)は、2人の候補者の基礎票の比率に応じてそれぞれに分配、つまり「按分」されます。
 例として「田中 A男」という基礎票が10票、「田中 B子」という基礎票が20票あるとします。2人の基礎票の合計は30票で、そのうち「田中 A男」分は1/3、「田中 B子」分は2/3を占めています。このとき「田中」という1票の按分票があれば、その1/3にあたる0.333票が「田中 A男」に、2/3にあたる0.666票が「田中 B子」に按分されます(※)。
 なお、これらの票を足しても0.999票にしかなりません。これは、それぞれの候補者に按分するときに0.001票未満の票は切り捨てるという決まりがあるからです。1×1/3=0.33333…票は0.333票に、1×2/3=0.66666…票は0.666票に切り捨てられるということです。残った0.001票は「按分により切り捨てた票」とされ、“無効票ではないものの誰の得票にもならない票”となります。なお「田中」という按分票が3票あったとすれば「田中 A男」に1票、「田中 B子」に2票と按分されますので、「按分により切り捨てた票」は発生しません。

 さて、上記を踏まえて本題に移りますが、「田中 A男」も「田中 B子」も共に基礎票が0である場合、「田中」という按分票はどう按分されるでしょうか。
 このときこそ「『田中 A男』に半分、『田中 B子』に半分」と思われるかもしれませんが、実はどちらの得票にもなりません。仮に「田中」票が100票あってもすべて同じ扱いです。これこそ「何れの候補者にも属さない票」の正体であり、先ほどの「按分により切り捨てた票」と同様に、“無効票ではないものの誰の得票にもならない票”として扱われます。
 按分の計算時にゼロ除算が発生するため、それが理由になっているのかもしれませんけども、詳しいところはわかりません;-o-)理不尽な気もしますが、そういう決まりです。

 「何れの候補者にも属さない票」は、地方の首長選や議会選ではまず発生しませんが、現行の参院選などでは発生の可能性が比較的高いものと考えられます。これは立候補者が非常に多く、また按分計算を(全国集計後ではなく)市町村単位で実施するため、「基礎票は0だが按分票が存在する」という事態が起こりやすいことが理由です。


※ ただし、まぎらわしい票がすべて按分の対象になるわけではありません。対象となるの基本的に姓や名の文字・音がダブっている場合だけです。