電王戦第1局でPonanzaが佐藤名人に衝撃的な勝利

 もう昨日のことですが、これは驚きました。
 なんといっても先手のPonanzaが初手▲3八金。言葉は悪いですが舐めプといわれてもおかしくない手です。しかし、もしかしたら▲7六歩とか▲2六歩という一見自明の手が、必ずしも先手の利につながるわけではないという深遠な判断なのかもしれません。
 本当にそう思わせるPonanzaの強さでした。中盤になってもほとんど持ち時間を使わず、後手の佐藤名人に仕掛けさせて完璧に受け、短手数で大差を築いての勝利だったからです。現在のコンピュータ将棋のレベルを考えれば、関係者もみな覚悟はできていたでしょうけれども、やはり現役名人がこのような内容で負けるという衝撃は大きいものだったと思います。
 さらに対局後のコメントでは、名人から”練習対局でもほとんど勝てなかった”ということが明らかにされました。やはりPonanzaが人間のレベルを完全に上回ったものと認めるしかないようです。

 こうなった以上は、囲碁と同じように割り切ってしまうしかないのだろうと思います。人間がコンピュータに学び、ときには挑むという構図も決して悪くはないと思います。また、コンピュータのレベルが人間をはるかに引き離してしまえばコンピュータ対人間の勝負の意味は薄れ、あとはコンピュータ対コンピュータ、そして人間対人間の勝負、という棲み分け状態に戻るのかもしれません。かつて”人間の持つ大局観はコンピュータが決して及ばない領域”とみなされていたことを考えると寂しいですが、これは仕方のないことなのだろうと思います。
 とはいえ、コンピュータに勝てないプロの世界にどれほど意義があるのかが問われるのも事実です。人間対人間の対局の面白さは認めるにしても、現在のプロ制度をどこまで維持していけるのか、そしてもしプロ制度の存続が約束されたとしても、真に才能ある人材が将棋のプロを目指そうとするのかどうか。10年ほど前にBonanzaが出現したあたりから囁かれてきた不安が、一気に現実のものになってしまったように思います。