最高裁判所裁判官国民審査法第22条に基づく記載無効の解釈について

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 衆院選と共に実施される最高裁の国民審査についてですが、この審査に特有の「記載無効」が話題になることがあります。
 この記載無効というのは、無効票とは異なるものです。例えば審査用紙に×以外のもの(〇や△の記号、落書き等)を書き込むと一発で無効票となります。無効票は票全体が無効となりますので、いずれの裁判官に対しても「罷免すべき」とも「罷免すべきでない」ともカウントされません。基本的に棄権したのと同じ結果になります。
 一方で「記載無効」いうのはいわば一部無効にあたります。その裁判官についてのみ「罷免すべき」とも「罷免すべきでない」ともカウントされない、という結果になります。
 まずは根拠法である最高裁判所裁判官国民審査法第22条を見てみましょう。

 (投票の効力)
第二十二条 審査の投票で次の各号のいずれかに該当するものは、無効とする。
 一 所定の用紙を用いないもの
 二 ×の記号以外の事項を記載したもの
 三 ×の記号を自ら記載したものでないもの
2 第十四条の規定により投票用紙に審査に付される裁判官としてその氏名が印刷された者が二人以上の場合には、前項第三号に該当する投票は、その記載のみを無効とする。これらの者のいずれに対して×の記号を記載したかを確認し難い記載も、同様とする。

 なんだかややこしいですが記載無効に関連しているのは第1項第3号及び第2項で、その解釈は次のようなものとなります。

  1. 自ら記載したものでない×印が記載されている場合、その記号が書かれた裁判官については記載無効となる。
  2. 誰に対して書いたのかわからない×印が記載されている場合、(有効な×印が記載された裁判官を除き)すべての裁判官について記載無効となる。

 まず1についてですが、つまり本人の手書きでない×印が記載されている場合、その裁判官については記載無効になるということです。あえて実現困難な例を挙げますが、例えば投票所にモバイルプリンタを持ち込んで用紙の適切な位置に×印を印刷できればこれに該当すると考えられます。もちろん間違いなく阻止されますけども;-o-)

 次に2についてですが、これは「用紙に×印は記載されているけども、誰に対するものかわからない」というケースです。具体的にどことは示しませんが、そのような×印を実際に記載できれば、基本的にすべての裁判官について記載無効となります。さてここで「それはつまり無効票じゃないのか」という指摘はごもっともで、実際に無効票となります。「全員について記載無効(一部無効)」という解釈はあり得ず「無効票」なのです。ただし、そのような×印とは別に、普通に有効な×印が記載されている場合は、その裁判官については記載無効を免れるので無効票にはなりません。つまり「おかしな場所に×印が記載されている、でも裁判官Aについてはきちんと×印が記載されている」という場合、裁判官Aについては「罷免すべき」とカウントされ、残る全員については記載無効となり「罷免すべき」とも「罷免すべきでない」ともカウントされません。

 なお、1の場合は「記載無効」「罷免すべき」「罷免すべきでない」がいずれも共存可能ですが、2の場合は「記載無効」と「罷免すべきでない」は共存できないことがわかります(記載のない裁判官についても「記載無効」と扱われるため)。


 というわけで、見ようによっては記載無効の規定に基づき通常の投票とは異なる意思表示が可能になる、と考えられなくもありませんが、上記のような記載の仕方は(仮にできたとしても)全くおすすめできません。上記の法規定も考察もあくまで理屈であって本来の審査のやり方を示したものではありませんし、現実問題として雑事記載等による無効票と判断される可能性が高いからです。
 特に愉快犯的な使用は迷惑行為でしかありませんので絶対におやめください。少々時間があれば各裁判官に関する情報を得ることもできますし、その結果に基づき確信をもって審査するようにしてください。