藻谷浩介,山田圭一郎「観光立国の正体」

f:id:accs2014:20170902174136j:plain:right:w210

 2016年に出版された本です。
 本書は大きく二つの部に分かれています。前半では観光立国のモデルとしてのスイスの例や、国内でも起こりはじめた観光地の再生事例を挙げた上で、現在の観光事情に即した施策の提案を行っています。また、後半では藻谷氏と山田氏の対談形式により日本の観光業の問題点を次々と指摘していきます。

 中国などからの爆買いで一時的に潤う日本の観光業界の姿は、国内の団体客を機械的に捌くだけであったかつての地方の観光地と何ら変わりなく、「観光立国」という看板も明確な将来像や戦略を欠いた代物であるとの指摘はもっともだと思います。実際にアジアからの来訪客を十把一絡げにしか見ておらず個別対応ができていない点、従ってリピーター獲得もまるで考慮されていない点については、早くもその限界が露呈しているように感じています。
 また、廉価で画一的なサービスを目指す方向性から脱却することと、特定の事業者に任せるのではなく地域と社会全体に観光を位置づけるべきという提言も当を得たものだと思います。
 随所で地域の実名を挙げている点に対しては賛否があるようですが、机上論に終始するよりよほど良心的だろうと思います。

 以下、印象に残った部分をいくつか。

藻谷 (中略)なのに日本ではなぜSWOTが流行ってポジショニングが流行らないか。顧客が誰なのかという要素を排したSWOTは、プロダクトアウトの発想の典型だからでしょう。
(P205)

 これは経験のある方も多いと思いますが、地方のワークショップなんかでも「これからはマーケットイン的な発想での取り組みが必要だ」というところまでは理解されるものの、そこから顧客の視点を取り入れる仕組みがなく、現状分析としてSWOTなどが行われると従来の名勝旧跡や土産品が次々と挙げられていき、結局「地元のブランド産品を磨き上げよう」といった、極めてプロダクトアウト的な結論に落ち着いてしまうのです。意図する、せざるに関わらず、こういうすり替えがしばしば起こってしまうのです。

資本や経営だけでなく、多少コストが高くついても必要な資材はできるだけ地元で調達し、住民がお互いに支え合う、このような手法によって、スイスは観光・リゾート地としても独自性とクオリティを保ってきました。
(P38)

今、日本の観光・リゾート地に一番欠けているのが、この「地域内でお金を回す」という意識ではないでしょうか。特に近年は、目先の価格競争に気を取られ、一円でも安い業者から食材・資材を購入しようと躍起になっている事業者が増えています。
(P59)

 地域の人材、資源を最大限に活用するというのはとても重要なポイントですが、しばしば目にする「お金を回す」というのも曲解されやすい表現であり、ともすれば(本書の批判の的になっている)従来型の排他的な構造を温存させかねません。
 お金と同時に「お金の逆の方向に回すべきもの」である財・サービスに対して意識を向けるようにしないと、真に求められる”独自性とクオリティ”の追求にまで考えが及ばないのではないかと、この表現を見るたびに気になります。

山田 単純な割引キャンペーンよりも更に怖いと言われているのがJRの「デスティネーションキャンペーン(DC)」です。最近は「ドーピングキャンペーン」と呼ばれていますね。(中略)実際、DCを仕掛けた後に継続して売れているという地域はほとんどありません。
(P163)

 DCとか(観光とはちょっと別ですが)国体とかはいまや「やっている県でしか知られていない」イベントの代表格です。
 本書はあちこちでイベントや観光地の実名を挙げていますが(全くではなく、やはり伏せているところもあります)、思ったほど毒がなくて、むしろいろんな地域を丁寧に見てるなあと思いました。私自身は概ね正当な批評だろうと感じています。

藻谷 熱海は実は、東海道新幹線沿線で消滅可能性が一番高い自治体なんです。人口は最盛期の半分ぐらい。「知名度がないから問題だ」とか「交通の便がダメだから新幹線をよこせ」とかいう人たち全てのアンチテーゼが熱海です。
(P223)

 宣伝もアクセス改善も全く不要というわけではないのでしょうが、芯のある観光施策が存在しなければそれらも一時しのぎにしかなりません。

藻谷 (中略)つまり、今の旅行代理店は、ダメな商品を集めて感度の低い客に売るというディスカウンターサービスになっているわけですね。(中略)改善しちゃうと直販を始めて、代理店を通さなくなっちゃいますから。これ、関係者はみんな知っているけど言わないですよね。
(P177)

 知らなくとも農業などにも全く同じ構造があるため、容易に想像がつくのが悲しいところです;-o-)


 その他にも頷かされる点は多く、挙げていくとキリがありませんが、補助金に群がる事業者や質の低い人材(ガイド)育成の現状など、観光のみにとどまらず各産業に共通する問題をよく捉えています。特に「官」が絡む産業振興のあり方に疑問を感じている方にご一読いただきたいと思います。

永田和宏ほか「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」

f:id:accs2014:20170902172311j:plain:right:w210

 京都産業大学で開催された講演・対談シリーズの内容をまとめたものです。講演者は山中伸弥,羽生善治,是枝裕和,山極壽一の各氏で、そうそうたる顔ぶれとなっています。
 対談では同大学の生物学者であり、歌人でもある永田氏がホストを務めています。


 本書の冒頭には次のように記されています。

 お招きしたのは、私がよく知っていて、しかも尊敬している方々ばかりであるが、この講演と対談で感じてほしいものは、決して彼らがいかに偉大であるかということではない。端的に言って、あんな偉い人でも、なんだ自分と同じじゃないかということを感じとってほしいというのが、この企画の意図であり、狙いである。

 こう書くくらいですから永田氏は相手の仕事や人間性をよく理解した上で臨んでいて、あまりカッコよくない部分も含め、相手を引き出せていると思います。また、聞き役に徹するでもなく渡り合っていて、このあたりは結構中身の濃いものになっていると思います。
 ただし、講演も含めて、青少年期や学生時代をクローズアップした内容が多いわけではなく、本のタイトルから想像されるような内容とはちょっと違う印象を受けるかもしれません。羽生さんの講演なんかもまあいつも通りだなーという感じですし;-o-)

 私としては是枝監督の部分が最も印象に残りました。字数的には短いんですけども、現場での失敗を通じて仕事へのスタンスというか考えを確立してきた過程がわかりやすく伝わってきますし、常にある仕事への迷いや不安といった部分もよく感じられるように思います。

 とにかくサッと読める内容ですので、まさに何者かになろうと努力している学生さん、若い社会人の皆様におすすめしたいと思います。

立川の昭和テイスト漂う賑やかな居酒屋「弁慶」

f:id:accs2014:20170821215322j:plain:right:w280

 なぜか立川です。都心からは少し離れていますが、東京競馬場も近いしいい店が多くてとても好きな街です。
 どこに行こうか迷うところですが、やはり地元で愛される居酒屋、弁慶さんです。


f:id:accs2014:20170821215316j:plain:right:w210

 もつ鍋が本当においしいお店なんですけども、さすがに今のシーズン、目の前で火を焚く気にはなれませんでしたのでもつ煮です。
 これさえあえば言うことはありません;><)もつ煮こそ居酒屋の真髄。MOTSUNIを世界の合言葉に、これが私の願いなのであります。


f:id:accs2014:20170821215313j:plain:left:w210

 酒は生グレープフルーツサワーです。なかなか濃いめなので1杯で効いてきます;-o-)


f:id:accs2014:20170821215309j:plain:left:w210

 カウンターに飛行機がぶら下がっているのはやはり立川だからでしょうか。
 写真は控えましたけどもメインはテーブル席で、そちらの賑やかな様子がいかにも昭和的で魅力ある光景なのであります。


f:id:accs2014:20170821215306j:plain:right:w210

 ちょっと早いですがポテサラで中締めでございます。酒場放浪記を見ていてこれは酒のつまみとしてどうなのかという気がしていましたが、最近になってなかなか優秀ではないかと思うようになりました。いかにも一人飲みらしいメニューです;^o^)
 安く飲めて一人でも楽しめるお店ですが、やはり3,4人でもつ鍋をつつく、というのが理想的かと思います。お友達同士でぜひどうぞ。


f:id:accs2014:20170821215345j:plain:left:w210

 オマケですが次は南口のオーセンティックバーKnottさんで一杯。
 何度か来たことがありますが静かにじっくり飲めるいいお店です。おすすめ。


f:id:accs2014:20170821215341j:plain:left:w210

 そして再度北口に戻り、さっきの弁慶に近いザネリさんで締めの一杯。
 割と新しいお店ですがシート席もあってフランクな雰囲気のお店です。お値段も手頃ですので立川にお寄りの際はこちらもぜひ。