羽生善治「上達するヒント」

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 将棋界の第一人者による初心者~中級者向けの図書です。
 初心者向けの将棋の本といいますと、玉はこの形に囲いましょうとか、この局面ならこの手を指しましょうとか、とにかく具体的な指し手にこだわりがちです。まあそのぐらい具体的でないと初心者には訳がわかりませんし、読みの力を伸ばすためには「次の一手」的なトレーニングも重要かと思います。
 しかし、そんな絵に描いたような局面がそうそう実現するものではなく、実際に指していると何を考えて指していったらいいのかわからない、という状態に陥りやすいのも確かです。
 そこで重要なのがより長期的な戦略であったり、駒の効率的な活用であったりするわけですが、本書ではそうした抽象的な指針や判断基準を初心者にも理解できるよう、なるべく平易な言葉で解説しています。
 本書の有名な一節として「将棋は、一手だけよい手を指したからといって、それで急に状況がよくなるわけではありません。」(P22)というのがあります。実際に本書の内容も、都合の良い場当たり的な局面での指し手を示すのではなく、実際に海外のアマチュアの対局で指された棋譜に基づき、一局の対局の進行に応じて解説するという形式になっています。まさに上記の主張を踏まえた構成になっていて、解説に説得力があります。
 「位取り」や「陣形」だけでなく、「厚み」とか「進展性」といった難しい概念にまで幅広く踏み込んでいますが、こうした考え方を少しでも理解できるようになれば、自らの指し手だけでなくプロの対局の見方や楽しみ方も変わってくるのではないかと思います。棋力の向上というだけでなく、将棋というゲームの特性を理解しようとするのに有益で、長くつきあえる良い本だと思います。